大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和56年(ワ)2034号 判決

原告

藤原久男

被告

上田商事株式会社

ほか一名

主文

被告らは原告に対し各自金八九二万七九九三円及び内金八一二万七九九三円に対する被告上田商事株式会社については昭和五六年一二月一三日から同金城一夫については同月二〇日から、内金八〇万円に対する昭和五九年二月二四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らのその四を原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告らは原告に対し各自四七五九万五〇〇〇円及び内四五〇〇万円に対する被告上田商事株式会社については昭和五六年一二月一三日から同金城一夫については同月二〇日から、内二五九万五〇〇〇円に対する昭和五九年二月二四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五五年五月一日午後二時五〇分ごろ京都市中京区寺町通二条交差点において北進中の原告運転の自動二輪車(京都市南さ七一一〇)に対して二条通りから右折してきた被告金城一夫運転の普通貨物自動車(京四四み三三九四)が衝突した。

2  原告の受傷

原告は右事故により受傷し救急車で小柳病院に搬送されたのち左記の通りの治療経過をたどつた。

(1) 昭和五五年五月一日から同月二日まで小柳病院に通院二日間(内治療実日数二日)。診断名「腰部、右膝部打撲、左手脊打撲、擦過傷」

(2) 同年五月三日から同月八日まで九條病院通院六日(内実治療日数五日)

同年同月八日から同月三一日まで同病院入院二四日。診断名「胸部、腰部、右下腿打撲、右第六肋骨骨折の疑」

(3) 同年六月四日から同年九月七日まで京都第一赤十字病院入院九六日

同年六月二日から同五六年四月二二日まで同病院通院一八八日(内実治療日数三八日)、診断名「腰椎捻挫、頸椎捻挫、頭部外傷」

同五六年四月二二日同病院において症状固定の診断を受け現在なお通院加療中

3  被告らの責任

被告金城一夫が前方右方の安全を十分確認しないまま右折しようとしたため原告車に衝突したものであり、同被告には民法七〇九条による損害賠償責任がある。

被告上田商事株式会社は加害車両の保有者であり、かつ被告金城一夫を雇用して加害車両を業務用に運行せしめていたので自賠法三条及び民法七一五条により損害賠償責任がある。

4  原告の損害

右事故により原告は左の通りの損害を被つた。

(一) 休業補償 四二一万三四七九円

原告は自ら建設業を営む者であり月平均三六万円の収入を得ていたところ右受傷によつて完全休業を余儀なくされた。よつて、受傷日から後遺症認定の前日までの三五六日分合計四二一万三四七九円の休業補償を求める。

(二) 後遺症による逸失利益 二八四六万四四八〇円

原告は右事故による受傷について昭和五六年四月二二日京都第一赤十字病院で両上肢、左下肢の疼痛、運動障害および知覚麻痺、歩行困難、日常生活動作困難、頸部痛、腰痛、眩暈、嘔気などの症状を残したまま症状固定と診断された。原告は右症状により労働が不可能なばかりでなく日常生活にも大きな障害があり同年五月一四日京都市身体障害者二級(外傷による両上肢及び左下肢機能障害)の認定を受けている。

原告は右症状固定の診断時五九歳であり少くともあと八年間(新ホフマン係数六・五八九)は稼動できたと思われるところこれが不可能となりその間の逸失利益は二八四六万四四八〇円に相当する。

(三) 慰藉料 一五〇〇万円

前記治療経過並びに後遺症の存在からみて原告に対する慰藉料は少くとも一五〇〇万円を下らない。

(四) 付添費用 一一一五万八八九二円

原告は前記症状のためほとんど自分で日常生活動作すらすることができず原告の妻が常時付添わざるを得ない。とりわけ、原告が京都第一赤十字病院を退院して通院するようになつてからは妻の付添介助が不可欠となつたため、妻はやむなく昭和五六年五月一日以降八九日間休職し同年八月二八日には退職を余儀なくされた。妻の昭和五四年度の手取年収は一〇一万六二〇〇円であつたからその休業補償分は少くとも二四万七七八五円であり、右事故がなければ妻(退職時四〇歳)は少くとも五五歳の定年退職まで一五年間(新ホフマン係数一〇・九八一)は就労して賃金を得ていたはずであるが向後も就労不能となつたため少くとも一一一五万八八九二円の収入を得られなくなつた。常に介助を要する重症者については妻の実収入相当分をもつて付添看護料とすべきである。

(五) 治療費、補装具費など 九万〇一六九円

原告の治療に伴う費用の大部分は自賠責保険及び身体障害者療養給付金などから支払われているがなお原告自ら支出したものに左の費用がある。

(1) 補装具代 三万九八〇〇円

(2) グリソン、滑車、カラーコルセツトなど合計 一万二四五〇円

(3) 愛生会山科病院治療費 七九一九円

(4) マツサージ代 三万円

5  損益相殺

原告は、右事故の損害賠償として被告上田商事株式会社の加入する対人保険から休業補償の名目で合計一九五万円を受領した。

6  弁護士費用

原告は、被告らに対し前記損害の賠償を求めたが話し合いがつかないためやむなく法律扶助協会京都支部を通じて原告代理人に委任し事件終結の時に同協会の規定に従つて弁護士費用を支払う旨約した。この予定される弁護士費用は京都弁護士会報酬規定により二五九万五〇〇〇円である。

7  よつて、原告は被告らに対し右損害合計額五九五七万二〇二〇円のうち四七五九万五〇〇〇円及び弁護士費用を除いた四五〇〇万円については本件訴状送達の日の翌日である被告会社については昭和五六年一二月一三日から同金城については同月二〇日から、二五九万五〇〇〇円については本判決言渡日の翌日である昭和五九年二月二四日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの認否及び主張

1  請本原因1の事実は認める。

同2の事実は否認する。

同3の事実のうち、被告会社が加害車両の保有者であることを認め、被告らの責任を争う。

同4の事実は否認する。

同5の事実は認める。

同6、7は争う。

2  原告には被告車に対する見通しが良かつたのにかかわらず被告車の動静を見極めて進行しなかつた過失がある。

原告は事故により加療一週間を要する腰部右膝部打撲、左手背打撲擦過傷の負傷をしたにすぎず、その余の傷病現在の症状は本件事故と無関係である。

第三証拠〔略〕

理由

一  (交通事故の発生と責任)

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第一九ないし第二一号証、同第二四、第二五号証、同第三一号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

本件事故現場は、南北に通ずる交通頻繁な寺町通り(車道の幅員約八・二メートル、東沿いの歩道の幅員約三・六メートル西沿いの歩道の幅員約三・七メートル)と西へ通ずる二条通り(幅員約六・五メートル)とが交差する交通整理の行われていない丁字型交差点上であつて、二条通りの交差点西手前には一時停止の標識があり、南西角はガソリンスタンドとなつている。二条通りから左(北東)右(南東)方向に対する見通し、及び寺町通りから左(北西)二条通り方向への見通しは共に不良である。原告は自動二輸車に乗つて時速約三〇キロメートルで北進し交差点手前で被告車が停止しているのを見て従前の速度のまま直進しようとしたところ二条通りから東進右折してきた被告車が原告車の左側に衝突した。被告金城は、被告会社の従業員であるが社用を終え被告会社所有の普通貨物自動車を運転して帰社の途中二条通りを東進し前記交差点手前に至り一時停止したが、右方道路に対する安全の確認を十分しないで時速約一〇キロメートルで交差点に進入し右折しようとしたところ右前方約六・五メートルに原告車が接近してきているのを発見し危険を感じて直ちに急制動の措置をとつたが間に合わず自車前部を原告車左側に衝突させた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、被告金城には右前方に対する注意を怠つたまま進行した過失が認められるから民法七〇九条により、また被告会社は加害車の所有者であり被告金城が被告会社の業務に従事中発生させた交通事故であるから自賠法三条、民法七一五条によりいずれも原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

尤も、原告はこのような左方に対する見通しの悪い交通整理の行われていない交差点を通過する場合は徐行し危険の発生を回避すべき義務があるのにかかわらず減速することなく従前の速度のまま通過しようとしたのであるから過失がありその結果損害を増大させたものと認められ、前記被告金城の過失程度と比較考量し原告の過失割合を一割として損害額を減額するのが相当である。

二  (損害)

成立に争いのない甲第二ないし第一一号証、同第二六号証、乙第一ないし第四号証、証人立入克敏の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実を認めることができる。

1  原告は右事故により京都市上京区寺町通今出川下ル扇町二六八番地小柳病院で、腰部、右膝部打撲、左手背打撲擦過傷と診断され昭和五五年五月一日、二日の二日間治療を受け、続いて同市南区唐橋羅城門町一〇番地九条病院で胸部腰部右下腿打撲、右第六肋骨骨折の疑により同年五月三日から同月八日まで通院し(実治療日数五日)、同月八日から同月三一日まで二四日間入院し、同市東山区本町一五丁目七四九番地京都第一赤十字病院で、腰椎頸椎捻挫、頭部外傷の傷病名により同年六月二日から同五六年四月二二日まで(実治療日数三八日)通院しその間昭和五五年六月四日から同年九月七日まで九六日間入院して治療を受け同五六年四月二二日に症状固定した。しかしながらなお頸椎腰椎部における神経圧迫による両上肢左下肢の運動及び知覚麻痺があつて両手指及び左下肢の自動運動は困難である。右発症の経緯は次のとおりである。京都第一赤十字病院での初診時には両上肢にしびれ感なく運動麻痺や知覚異常も認められなかつたが、退院後の昭和五五年一〇月一日頃から右手指にしびれ感を訴えるようになつてから急速に増悪し、同月二二日には把握動作が不能となり、昭和五六年一月八日頃には左上肢にも異常を訴えるようになり、同年三月一二日頃には左握力が0になつた。また同病院での初診時には左下腿筋に筋萎縮を認めたが両上肢は正常であつたが、昭和五七年二月頃には左上肢に高度の筋萎縮を認めるようになつた。これらの原因は、加令的な頸椎骨軟骨症に加えて頸部に加わつた外傷が寄与しており、さらに精神神経的因子も加味しているものとみられる。

以上の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、退院後暫くして増悪し現在かなり重度の症状が認められるけれども、その主たる原因は加令的な頸椎骨軟骨症に加えて精神神経的因子にあるけれどもなお本件事故による外傷が寄与していることも否定しえず、右症状の部位程度、発症時期、増悪状況等諸般の事情を考慮すると右後遺障害に対する本件事故の寄与度を三割とみるのが相当である。

2  本件事故と相当因果があると認められる損害額は次のとおりである。

(一)  (逸失利益)原告は大正一〇年一月一一日生(事故当時五九歳)の男性で本件事故当時軽量鉄骨による建物の建設、配管工事等を業として営んでいたが、その収入額、経費等を適確に認めるべき証拠がないので賃金センサス昭和五五年度第一巻第一表男子労働者学歴計五九歳の平均年収三四四万五三〇〇円を算定の基準とし、逸失割合を入院期間一二〇日間について一〇〇パーセント、事故後症状固定日である昭和五六年四月二二日までの間のうち右入院期間を除いた二三七日(但し、退院後の日数はうち二二七日)について八〇パーセント、その後就労可能と考えられる八年間(そのホフマン係数六・五八九)について八〇パーセントとする(但し、前記のとおり退院後の症状に対する本件事故の寄与率が三〇パーセントであるから結局二四パーセントとして計算する。)のが相当であるから逸失利益の合計額は七一七万七二〇円となる。

344万5300×120/365=113万2701……………………………〈1〉

344万5300×10/365×0.8=7万5513………………………〈2〉

344万5300×227/365×0.8×0.3=51万4246………………〈3〉

344万5300×0.8×0.3×6.589=544万8260……………〈4〉

〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉=717万0720

(二)  治療費等 原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一六号証の一ないし五と右尋問結果によると、(1)補装具代三万九八〇〇円、(2)グリソン、滑車、カラーコルセツト代一万二四五〇円、(3)愛生会山科病院治療費七九一九円、(4)マツサージ代三万円、以上合計九万一六九円。但し、前記同様その内容負担日等からみてその三〇パーセントに当る二万七〇五一円が本件事故と相当因果関係のある損害である。

(三)  慰藉料 本事件の態様、被害者の負傷の程度、治療経過、後遺症の内容程度その他本件に顕われた事情を斟酌すれば原告が本件事故につき慰藉料として請求しうべき額は四〇〇万円とするのが相当である。

(四)  原告は、さらに退院後の妻による付添介助費を損害として請求するけれども、前記症状そのものが必ずしも介助を不可欠とするものとはいえないばかりでなく本件事故の寄与割合からみてもこれを認めるのは相当でない。

(五)  過失相殺 右(一)ないし(三)の損害合計額一一一九万七七七一円について前記過失割合により按分すると一〇〇七万七九九三円となる。

(六)  損益相殺 右損害について原告が一九五万円を既に受領していることは当事者間に争いがないのでこれを右一〇〇七万七九九三円から差引くと残額は八一二万七九九三円となる。

(七)  原告は本件訴訟の遂行を弁護士に委任しており、本件訴訟の内容、経過、認容額その他諸般の事情を勘案すれば原告が負担する弁護士費用のうち損害賠償として請求しうべき額は八〇万円とするのが相当である。

三  よつて、原告の本訴請求は被告らに対し各自八九二万七九九三円及びうち八一二万七九九三円に対する損害発生の日以後である被告会社については昭和五六年一二月一三日から同金城については同月二〇日から、うち八〇万円に対する昭和五九年二月二四日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例